デービッド・アトキンソン

ただ、何をもって、何と比べて、何がどう違うかがあいまいなまま、わざわざ「世界に誇るおもてなしの心」などということをコンセプトに入れるのは、日本人に向かってならともかく、外国人に対してはやめておいたほうがよいということを申し上げているのです。 プロジェクトのコンセプトというのは、やはり重要であり、このような上から目線」の考え方はすべてにあらわれ てしまいます。そして、まだ日本のことをよく知らない外国人の目には、その商品と「おもてなしの心」の関連性は、非常に奇怪に映ってしまう恐れがあるのです。 逆を考えてみましょう。たとえば、先の国際観光客到着数ランキング(図表 2 – 2 )を見てみると、ヨーロッパにおいて国際観光客到着数で日本(2013年は1036万人)と同レベルの国を探すと、ハンガリー( 1068 万人)、クロアチア( 1096 万人)という国が挙がります。両国とも実際に足を運んでみればいい国でしょうし、見どころもたくさんあるでしょう。ただ、ひとつはっきりと断言できるのは、世界的な評価においても、数字としての評価においても、両国は「観光立国」ではないということです。もちろん、ヨーロッパにおいてもハンガリーやクロアチアに「観光立国」というイメージはありません。 そんなハンガリーやクロアチアがいきなり世界に向かって「私たちの国には世界に誇るホスピタリティがある」などと言い出したら、みなさんはどう思われるでしょうか。不快に思うというほどではありませんが、実力がともなわない宣言だけに、白けてしまわないでしょうか。観光のイメージが何もない国の人たちが、「上から目線」で自分たちが世界でも特別な存在だと胸を張っているように見えてしまうからです。客に「おもてなし」をほめられたとき、謙虚に「とんでもないことです」などと否定する精神も、日本人の美徳なのではないでしょうか。 心外かもしれませんが、日本が「世界に誇るおもてなし文化」ということを世界に向かって声高に叫べば叫ぶほど、外国人は冷ややかになっていってしまうのです。もしも本当に日本が観光立国を目指そうというのなら、このような発信がプラスに働かないということは言うまでもありません。